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札幌地方裁判所 平成3年(む)213号 決定 1991年5月05日

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

本件準抗告の申立は、被疑者甲野一郎に対する猥褻図画販売目的所持被疑事件の勾留取消請求却下の裁判に対して、平成三年五月五日になされたものであるが、検察官から、同日、右申立後に、甲野一郎に対し同事件につき勾留のまま公訴の提起がなされており、その後は同人は被告人として勾留されているから、現時点においては、右申立は法律上の利益を欠き、不適法である。

よって、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官植村立郎 裁判官吉村正 裁判官波多江真史)

準抗告の申立

被疑者 甲野一郎

右の者に対する猥褻図画販売目的所持罪被疑事件について、平成三年五月二日付で札幌簡易裁判所裁判官若山義がなした勾留取消却下決定に対して次のとおり準抗告を申立てる

一九九一年五月五日

弁護人 石田明義

札幌地方裁判所 刑事部 御中

申立の趣旨

原裁判を取消し、検察官請求の勾留請求を取消す。との決定を求める。

申立の理由

一、原裁判の違法性

1、原裁判は、勾留取消請求に対して「勾留の必要ある」として却下した。

しかし、勾留取消請求の裁判には準抗告が許されるのであるから、裁判には理由をつけなければならない(刑事訴訟法四四条)ところ、なんら具体的理由を付することなく、単に「勾留の必要ある」と記載したのみで請求を却下したのである。

令状における裁判という性格をゆうしているにしても、「勾留の必要がある」としたのみでは理由を付したことには全くならず、違法な裁判である。

2、弁護人は平成三年五月一日付で四月二七日付札幌簡易裁判所裁判官の勾留に対して準抗告を申立てたが、札幌地方裁判所は刑事訴訟法第六〇条一項二号の「証拠湮滅のおそれがある」こと、勾留の必要があるとして準抗告を却下した。

札幌地方裁判所がなした右の裁判は、札幌簡易裁判所が平成三年四月二七日になした勾留の裁判に対する適否の判断であって、その後、捜査の進展、捜査の状況に含めた勾留の理由の存続の有無、勾留の必要の有無に対する判断ではない。

これに対して勾留取消請求は、勾留が決定された以降において、勾留理由および勾留の必要性の何れかで消滅した場合、あるいは不当に勾留が長くなった場合には、請求によって取消すことができるのである。さらに職権によっても勾留を取消ができるのである。

ところが、原裁判は平成三年五月二日の午後四時ころ勾留取消請求を申立したが、同日、却下決定をした。先の準抗告申立から、準抗告棄却まで、二四時間程経過したのと全く違い短時間に判断をして、しかも具体的理由を全く付していないのである。

勾留以降の捜査内容を十分に検討したとは到底思われないのである。

3、勾留は検察官の請求によって、裁判官(裁判所)の権限で勾留をするのであるが、勾留の理由および必要性については捜査の進展によって消滅する性格のものであるから、裁判所は少なくとも勾留取消請求があった時点以降の捜査の進捗状況、被疑事実に対する証拠確保の状況、起訴・不起訴の決定が可能な状況にあるのか否かなどを考慮にいれて具体的に理由として付して勾留の理由が存続しているのか、必要が存続しているのかをチェックする立場で判断をする必要がある。また、勾留制度が検察官によって安易に請求されてはならず、検察官が人手が不足であるとか、休日が継続することによって、取調がすすまないなどという理由でいたずらに勾留を継続することになり許されない。

原裁判は勾留の理由がどのような事情によって存続しているのか、勾留の必要性がどのように存続しているのか、全く具体的に理由を示さず却下をしたものであり、捜査に対する司法的抑制をはたしていない。

本来、勾留の理由、勾留の必要性の存続は検察官の立証責任であるから、取消請求があったときは裁判所は検察官に対して具体的に消滅していないことを立証させる必要がある。単に検察官が必要だと主張しているだけでは法の要請に答えたことにならない。

4、よって、原裁判は理由を付さない裁判であり違法であるので、取消を求める。

二、勾留の理由の消滅

1、被疑者は昭和六二年から本件の営業をしていたものであるが、たまたま猥褻本の購入を勧誘され、仕入れることになったが、ビデオなどの流行があり、販売はほとんどうまくいっていない状態にあった。

2、被疑者が管理していた古物台帳は、外の帳簿類などと同様に逮捕直後に一切押収されている。また、わいせつ本の在庫も押収されている。

3、個別に購入した点について個別の購入先については古物台帳に記帳している。

4、大量に購入した先については被疑者自身も明らかにするだけの情報をもっていないのである。店舗を訪問した業者から購入しているからである。

5、被疑者の身分、供述態度、供述内容、捜査の進捗状況からみて、被疑者には証拠湮滅の意思も、動機もなく、また、湮滅すべき証拠も存在していない。

6、以上のことから勾留の理由(証拠湮滅のおそれ)は全く存在していないことは明らかである。

三、勾留の必要性の消滅

1、共犯者として取調をうけている外の二名も既に殆ど供述を終えている。

2、被疑者は、大量に仕入れた猥褻本の入手先についてその事情は明らかでないのであるから、被疑者を継続して勾留してもなんら供述はありえない。

3、検察官の連休という事情によって勾留を継続するは正当な理由にはならない。休日の間も、被疑者は不必要な苦痛を継続されるのであり、これ以上は不必要な勾留である。

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